「目標管理制度」岐阜県多治見市
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1.制度の概要と経緯

  「目標管理による勤務評定制度」。
  職員一人ひとりが市の目標を十分に理解し、自ら進んで考え、実行する姿
 勢を持つことが必要とされる時代に、職員の育成を図り、職員の意欲向上を
 目指して、平成9年10月に「多治見市勤務評定要綱」を制定。
  平成11年4月、目標管理制度を導入、前記勤務評定制度との一体運用。
  平成12年10月、「多治見市人材育成基本方針」策定。翌13年度から
 現制度がスタートした。
  上司と部下が組織目標を共有し、そのもとで個人の職務目標を設定、一定
 期間ごとに改革改善を図りつつ、個々人の意欲向上を目指すマネジメントシ
 ステムである。同市行政運営システムの柱と位置づけられている。
  この制度により、
  @マネジメント体質の強化
  A能力開発
   ア人材育成
    課題発見能力、課題形成能力、課題解決能力の開発、上司のリーダー
    シップ、部課のフォロアーシップの発揮、円滑なコミュニケーション
    の醸成、良好なチームワークの形成などを実現、人材育成を図る。
   イ幹部の指導育成力の向上
    部下の長所短所、仕事の実績をよく観察、評定、指導することを目指
    す。公正かつ客観的な勤務評定で、的を得た指導育成を行い、部下の
    信頼を築き、監督者のリーダーシップを高める。
  B公正な人事の確保
   ア意欲の向上
    客観的かつ具体的な評定基準によって評定された職員は、それが給与、
    昇格に反映されることで仕事への意欲を高揚させる。
   イ適正配置
    職員個々人の能力・適正を重んじた配置で、適材適所の人事運営を進
    める。

2.この制度の特徴

 @実績重視
  「実績評定」と「能力・態度評定」の両面から評定を行う。
  「実績評定」では目標達成度を、「能力・態度評定」では達成過程におけ
  る能力や態度の観点から評定する。
 A組織目標と個人目標のリンク
 B評定結果を得点化し、処遇に反映する
 Cチャレンジ精神を重んじる「加点主義」
  困難な目標にチャレンジした職員には、たとえ目標を達成できなくても減
  点しない。
 D面接重視
 E公開を原則

3.具体的な運用

 @全職員を対象、9月、2月の年2回評定。
  9月は前期分、2月は通年分を評定する。
 A評定項目  職階別に次の8項目を設定する。
     管理職     監督者      一般職
  1 政策形成    政策形成     改善・工夫・企画
  2 管理・統率   業務推進・処理  業務推進・処理
  3 経営理念    指導・育成    理解力
  4 指導・育成   折衝・調整    知識・技能・市民対応
  5 決断力     知識・技能    規律
  6 折衝・調整   責任感      責任感
  7 知識・技能   積極性・熱意   積極性・熱意
  8 責任感     協調性      協調性
 B評定領域のウェイト 職位が高くなるほど実績のウェィトを高める。
                 実績評価    能力・態度評価
   一般職           40%     60%
   監督者           50%     50%
   管理者           60%     40%
 C評価結果の活用
  勤勉手当への反映、昇格対象者の選考、特別昇給の参考資料として活用。
  具体的には、部、職種ごとにランク付けを行う。
  Aランク(全体の10%を目安)  半年の手当てで+35000円
  Bランク
  Cランク(全体の10%を目安)  半年の手当てで−35000円
    AとCとで上下7万円の差。さらに2倍まで拡大できる定めあり。
  過去3年の勤務評定が特に優れないと認められる職員を「要指導職員」に
  指定し、本人、所属長に通知。
  その職員が半年後の勤務評定でも再度「要指導職員」に指定された場合は、
  昇給を6月延伸。さらに次の評定でも改善されないときは、降格予告。
  予告の半年後の評定でも改善されないときは、分限処分として1級降任。
 D目標設定のしかた
  被評定者と1次評定者が面談により個人目標を設定。評定者が職員間で調
  整。職場の共通認識とする。評定時には自己アピールを行う。
 E多段階評定
  評定結果の信頼度を高めるために、1次評価、2次評価を行う。
 F目標の公開
  組織目標は、ホームページで公開
  個人目標は、各職場でファイルし、職員相互で供覧できる
  2次評定結果の平均点、最高点を公表する

4.年間運用フロー(17年度の例)

 3月 政策マトリックス(総合計画、行革大綱、市長指示事項、地区懇談会
    などの要素を反映)
 4月 部の組織目標、部長個人目標、
    課の組織目標、課長個人目標の立案、
    4/12までに人事秘書課に提出
    4/14組織間調整を依頼
    4/19調整会議。3役・全部長が終日缶詰めで討議を行う。
    これに基づき組織目標兼管理職の個人目標が確定される。
    これを受けて個人目標案の立案。1次評定者との面談作業。
    この段階では甘い課長、辛い課長の差があるので、
    2次評定者による部内調整。
 5月 個人目標の確定、5/20までに人事秘書課に提出、
    組織目標の公表
 9月 自己評定、1次評定、2次評定の実施
    9/中旬までに人事秘書課に提出→12月勤勉手当への反映
 2月 組織目標の達成度評価(5段階)
    個人目標、1次、2次評定の実施、中旬までに人事秘書課に提出
    →昇格参考資料、特別昇給参考資料、6月勤勉手当への反映
    組織目標の公表

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5.感想
 
  以上概略を記述しましたが、勤務評定というものは客観性の確保が難しく、
 部署により、また担当職務の内容により比較のしにくいものであり、さらに
 公務員の職務には売上げ実績といった単純評価になじまない要素があり、制
 度の確立と運用には困難な点もあろうと思います。
  多治見市では、こうした困難を克服しながら、上記には書ききれなかった
 細かいガイドラインが設けられていて、評定を受ける職員が不満や不審をい
 だかないよう、最大の配慮がなされていると感じました。また現時点で完成
 されたものと考えることなく、今年度においても改良が加えられています。
  制度の最大目標は、職員に差別をつけることではなく、意欲を高めること
 により仕事と組織が充実し、それによって市民の満足度に貢献するというも
 のであると思います。
  また一方、公務員という仕事を選んだ個々人が、窮屈に目標に縛られてプ
 レッシャーにさいなまれるということでなく、前向きで向上的な生き方と職
 務態度を形成できる点でも、この制度は組織、職員両者にとってメリットの
 大きいものであると考えます。
  多治見市ではこのほか、昇任試験制度を採用しており、さらに17年度か
 ら、部下による上司の評価制度を導入したとのことであり、意欲的です。「一
 度課長になった者が、ずっと課長でいられるのではない」これは市長が宣言
 した文言です。定期昇給という発想を改め、組合との議論も重ねながら、こう
 した制度を確立させ、「働いても働かなくても同じ」という考えを、職場から一
 掃しようとしています。
  ここで補足的に、上記に書ききれなかったものをかいつまんで紹介してお
 きますが、評価の基準となる細かなガイドラインとして、例えば管理職の「経
 営観念」の項目では、「所管部の利害にとらわれず、市政への貢献を念頭にお
 いた判断を行っているか」など、具体的なチェック基準が網羅的に明示され
 ており、その数値化に際しても、達成度の側面と能力・態度の側面とをどう
 組み合わせるかについてルールが定められています。また職階ごとに「役割
 定義表」が定められ、さらに「評定者が陥りやすい錯誤等とその対策」とし
 て、具体的に、恣意や独断が判断を狂わせないよう、項目が掲げられた表も 
 準備されています。
  むろん、どこまで追究しても人間の所作であり、これで完璧という制度は
 確立できないと思いますが、この制度を職員全員が認識し、運用すれば、そ
 の最終目標を常に「市民の満足」に置くという確認作業ができるはずであり、
 行財政改革の柱として、この人材育成システムは大きく機能するものである
 と感じました。
  同時に、この制度が形骸化し、少しでも評価者の恣意や不平等が現れたら、
 職員はたちどころにこの制度を恨み、否定することになると思われます。そ
 の点、いささかも油断のできない運用が要求され、そのためには上司のリー
 ダーシップ、各人の危機意識が不断に必要とされるでしょう。この制度は上
 司のリーダーシップ形成をも目標のひとつとしている点が優れておりますが、
 かつ、この制度により評価されないトップリーダーその人がどのような振る
 舞いであるのか、ここにこの制度の成否もかかっているのではないか、とも
 感じた次第です。
  また、組織目標や評価結果を積極的に市民に公表することは、この制度の
 真面目であり、欠かせぬ要素です。また職員相互に認識できることも、すぐ
 れた点のひとつであろうと思われました。
  ちなみに、市長の言葉として、
  「課題がない部署はない」
  「従って目標の立てられない部署はない」
  という言葉を説明者が紹介してくださいました。
  丸亀市においても現在、平成16年度から人事考課の公平性留保のため、
 上司クラスの研修を行っていると伺っておりますが、早期にこれを実現し、
 かつよりよい制度とするために公表を絶対条件として掲げてほしいと思いま
 す。多治見市の視察結果も参考にしていただき、職員、市民双方が満足する
 制度の運用を、実現していただきたいと願っております。

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参考1.多治見市の定員適正化計画

 @平成22年度までに現行の15%削減を図る。
  …市民120人に職員1人へ
 AH10.4.1現在1157人→H22年度末983人
 BH17年度当初において969人。目標を早期達成した。
 CH18.1.23合併により一時的に職員が増大
 D第1段階 合併後5年以内に人口138人に職員1人へ
  第2段階 合併後10年以内に同150人に職員1人へ を目標
 Eその他
  ・現業職は退職不補充
  ・文化施設は外部委託
  ・反復業務は臨時・バイトで対応
  ・市民課は全部嘱託、地方分所も一部嘱託
  ・老人ホーム指定管理者制度
  ・保育所は公設民営

参考2.多治見市の継続した人事・給与制度改革

  前記「目標管理制度」とも内容が重なりますが、ここで多治見市における
 これまでの人事・給与制度改革の沿革を紹介します。
  H8秋    財政緊急事態宣言
  H10.10 係制を廃止、グループ制の導入、組織のフラット化
  H11.01 特別昇給運用開始 勤務評定で上位者に特別昇給
  H11.04 旅費制度の見直し 公用車使用では日当不支給、額下げ
  H11.09 管理職承認試験制度導入 年功序列から能力主義へ
  H12.01 希望降格制度の導入
  H12.03 職員退職手当基金を新設 (現在高24億。まかなえる)
  H12.04 退職奨励年齢の引き下げ  58歳→50歳
  H13.04 目標管理制度の導入、目標管理による勤務評定
         級別定数の導入
  H13.08 5級昇任試験制度の導入
  H14.04 民間経験者の昇格改善
         特殊勤務手当の見直し 廃止13件見直し9件
  H14.06 成績率の導入 勤務評定結果を勤勉手当に反映
  H15.12 民間企業経験者の採用枠を設け、3名採用
  H16.03 成績降格制度の導入(地公法「分限」規定を活用)
         上司を評価する制度の施行第1回
  H16.04 技能労務職給料表の導入(ラスパイレス対策)
         労務職の昇任試験制度導入
         通勤手当の見直し 距離区分・額見直し、6月定期導入
  H16.05 退職時特別昇給の廃止 国家公務員に合わせる
  H16.06 期末勤勉手当役職加算の廃止
         外国派遣制度の創設
  H16.10 特別昇給運用の見直し(凍結)
  H16.12 新たな部分休業制度の創設
  H17.02 上司を評価する制度の施行第2回
  H17.04 勤務時間の是正 週38時間45分→40時間
  H17.04 早出遅出勤務制度の創設 職場と家庭の両立を支援
         調整手当の廃止、管理職手当て支給率見直し 原則1%